医療工学とは


  1. 医療工学

    本プロジェクトで提唱する「医療工学」とは、「最先端の工学的手法を用いて、 より高度な医療を実現し、人類の健康な生活に貢献することを目的とした学問分野」、 と定義しています。

    従って、医療工学は、時代の進歩に応じて刷新していく知識と、伝統的な知識とが 融合する分野であり、先端医療を支える産業界への指導的人材の輩出に欠かせない 役割を担うものです。

  2. 背 景

    健康診断や病院での治療を受けると、いろいろな機械が使われていることに 気付くのではないでしょうか。 何気なく診断や治療を受けますが、その一面を支えているのが機械です。

    従来の機械工学では、力学、材料力学、流体力学、熱力学の四つの力学が基礎と されてきました。 今日の産業を見ると、その機械工学と、電子工学、情報科学、材料物性工学、化学 といったあらゆる知識の応用・融合の結果として、高度な製品や技術が 創出されています。

    生物学との結びつきにおいては、生物工学、生体工学、生体機械工学、 また、医療との結びつきにおいては、診断工学、治療工学、医用材料学、 というように、基礎的な研究領域から応用技術まで広範囲にわたって発展しています。 それと同時に、学問の名称とその内容とが、あまりにも細分化され乱立しているため、 混乱を招くこともあるのではないでしょうか。

    本プロジェクトで提唱する医療工学においては、定義で述べたように、 「人類の健康な生活に貢献すること」に主眼をおき、多岐にわたった これらの知識を包含し、また融合することにより、時代に応じて進化する ことを念頭においています。

  3. 将来展望

    「最先端の工学的手法」として避けて通れないのが、情報技術です。 近年のインターネット、コンピュータの進展には目覚しいものがあります。 更に、インターネット、スーパーコンピュータ、PC等の資源を活用した グリッド・コンピューティングと呼ばれる技術の発展を控えています。 このような時代の流れの中で、先見性を持って進めておくべき技術の一つが シミュレーションです。

    究極的に、これらの技術で目指すところは、「ホール・ヒューマン・シミュレーター」、 即ち、人間全体の生理・病理現象をコンピュータ上で、あらゆる物理現象を 取り入れて模擬的に表現すること、であると言えます。 そして、その過程で確立される技術を医療に活用するということが、 現在の医療工学における大きなテーマです。

    この「ホール・ヒューマン・シミュレーター」実現の過程として、 臓器モデル、血液循環モデルなどが考えられます。 また、以下に挙げるのは、新興の情報技術と伝統的な医用技術との融合による、 次世代医療支援システムのほんの一例です。

    • リアルタイム治療ナビゲーション
    • 臨床データと計算データの同化による治療結果予測
    • 治療メリットの定量的な判断支援
    • 個人別シミュレーションによる健康・体型予防ガイドライン作成
    • グローバル医療支援データベース

  4. 課 題

    先に述べた将来展望を語る上で、最重要の課題は、人材の育成です。

    我が国では、当分野の複数領域の知識に通じた人材の育成が、 目的意識的に行われてこなかったのが現状です。 その理由として、著しい情報技術の発展と相まって、 教育システムが十分に整備されてこなかったという背景が考えられます。

    当分野を支える指導的人材を育成するための仕組みを構築することは、 学際、医療、産業いずれにおいても、 世界的競争力を得るための喫緊の課題であると言えます。